雨に濡れた金沢マラソン2017(Part 2)
戦いすんで日が暮れて。
翌日は、ゆっくり風呂に入り、ゆっくり朝食をとった。ホテルを出たのは10時ちょっと前だった。せめて9時くらいに出発していれば、この日の悲劇はもう少し小さなものになっていたはずだった。
移動は基本、歩きだ。ただしたくさんまわりたいし、時間がもったいないので、ところどころスローだがジョグで移動した。月曜日なので当然ビジネス街では仕事が始まり、日常の時間が戻っている。しかしランナーはちらほらと目立っていた。金沢は歴史的景観や文化の魅力がいっぱいあるので、観光するのも大変である。どういう順序で歩くかは、だいたい考えていたが、なかなか思うようにはいかない。僕のことだから、例によってあちらこちらで道にも迷うし。
大野庄用水路/武家屋敷通り
とりあえずは兼六園方面へと向かったのだが、効率よくまわりたかったので、そこと金沢城公園は後まわしにした。尾山神社、足軽資料館、長町武家屋敷跡、前田利家土佐守資料館、老舗記念館などを先にみることにしたのだ。だが、どこも興味深い見どころがたくさんあり、思ったよりもひどく時間がかかる。
老舗記念館(左下の棒状のものは車麩)/21世紀美術館・レアンドロのプール
21世紀美術館・カラー・アクティヴィティ・ハウス/石川県立美術館・国宝「色絵雉香炉」
21世紀美術館についた頃は、すでに1時半を過ぎていた。そこからさらに加賀藩筆頭家老・本田家敷地内の苔むした階段を登り、石川県立美術館へと向かう。展示は前田家ゆかりの古美術、油彩、彫刻、日本画、加賀蒔絵・古九谷焼コレクションなど伝統工芸まで、石川ゆかりの美術品が多数展示されており、休憩をまじえないととてもまわりきれない。
だが心配ごとがないわけではなかった。それまでにも写真をたくさん撮って、ツイッターにアップしたり、グーグル道案内を使っていたから、スマホのバッテリーの残量は危険状態だった。それでも美術館の展示を観てからのほうが都合が良かったので、省エネしつつ使用していたのだが、そこを出るとスマホはもう虫の息だった。ソフトバンクショップを検索するのももったいないくらいに。そこを目指して足早にならねばならないほどにも。
しかし、めあてのビルがなかなか見つけられない。ソフトバンクのロゴは薄いグレーなので目立たない。さいきん目も老化が進んでいるのか、薄い色は見にくいのである。はっきりしろ、ソフトバンク! ようやく見つけたら、なんとそこはそれまでに何度も行ったり来たり通っていた場所だったのである。
店に駆け込んだときには、すでに残量はまったくのゼロで、画面は真っ暗だった。すぐに充電をお願いした。完全充電する時間はもったいないので、昼飯を食べる間にだけ充電してもらった。昼飯のタイミングをのがしていたからちょうどいい。近くでビールを飲める店を探し、餃子と赤味噌仕立てのあら汁を食べた。スマホがないんだから当然その写真もない。
40分程度で店に戻ると、なんとか44%まで充電が済んでいた。しかし、そんな余計なことでも時間を使ってしまったため、初めて金沢に来たら、ふつう一番に行かなければならないメインの兼六園に行けなくなってしまった。金沢城公園にもだ。仕方がないので、そこと同じくらいに行きたかったひがし茶屋街に向かうことにした。早くしないと暗くなる。だがそこからまたしばらく歩きなので、着いた時には残念ながら暗くなってしまっていた。
家人に買って来てくれと頼まれていた、きんつばの中田屋はもう閉まっていたし、ほかの店も多くが閉店していた。写真もスマホだから夜はうまく撮れない。これでは、せっかく兼六園をパスした意味がまったくなくなってしまった。こんなことなら、兼六園を見ておけば良かった。金沢といえば兼六園なんだから。
金沢行って来たの? いーなー、兼六園どうだった? え、行かなかったの? なんで? ……最低だ。
居酒屋・ばんばん/帰路飛行機からの景色
がっくりと意気消沈した僕はホテル方向へ戻ることにした。どこかで夕飯を食べねばならない。トホトホと徒歩で金沢駅方面へ歩いた。途中、目に入った「ばんばん」という居酒屋に入り、カウンターの角に座った。地酒・天狗舞とカンパチの塩焼き、ごぼうの塩唐揚げを注文した。いま気づいたが本能的に塩分を補給したかったのだろうか。塩ばかりだ。隣のオヤジがアラフォーの姉ちゃんを口説いている。しつこいのは嫌われるぞと忠告したいが、この夜を一人ですごしている僕に言える台詞ではなかった。そうして金沢の夜は、喧騒をまじえながらも静かに更けてゆくのだった。
あとはホテルへ帰るだけ…のはずだったが、おかしいな、気がついたらもう一軒寄っていた。塩おでん(まだ塩分補給している)と地酒・手取川あらばしりが、昨日と今日で疲れたカラダと心にしみる。名前も思い出せない居酒屋をあとにして、ホテルへ戻った僕は大浴場へ向かった。そんなに飲んでるのに大丈夫かオレ。
気がつくと朝だった。6時半に起きて風呂と朝食をすませると、もうあまり時間がない。荷物を整理しダンボールに詰め、ホテルから自宅へ送ったあとは、一目散に駅へと走った。何しろリムジンバスの発車までもう時間がないのである。なんでいつもこうなるんだ。汗だくで案内所のお姉さんにバス停場所を確認し、西口3番乗り場へさらに走る。ありゃ、やばい、もうバスがきているではないか! 走る、走る!
僕を最後の乗客として、1分たらずでバスは出発した。良かった。間に合った。日頃から良い行いはしておくものである。ま、それ以前に行動は余裕を持っておくべきだが。
最後部シートの真ん中に着席した僕が、タオルで吹き出すような汗を拭いていると、両窓側のサラリーマンが、なんだこのおっさんはという顔をしている。僕は涼しい顔で脇汗も拭くのだった。
定刻どおりに離陸した飛行機は、日本海側に出て海岸線を舐めるように上昇してゆく。3列シートの窓側の席でノートパソコンを開き、このブログの下書きを書いていたら、CAが隣席のテーブルにコーヒーを置いてくれた。2席とも空席だったのだ。いいね。気がきくね。
到着後、新千歳空港で遅い昼食をとってからバスで自宅へ向かった。
こうして雨と血と汗にまみれた金沢遠征は終わった。ヘトヘトである。札幌に帰ってから調べてみると、月曜日に金沢市内で歩いた距離は館内等も含めると20km近くあったようだ。フルマラソンの翌日に歩く距離ではないと思うぞ。
おしまい。